『ドキュメント "ラブ&ポップ"』 「序 章」

 _______________________________________

 

   もうじき又夏がやって来る----谷川俊太郎『二十億光年の孤独』(「ネロ」より)

 

 1996年4月、庵野秀明は昼頃、勤務先であり宿泊場所でもある三鷹のガイナックス社を出て、中央線で東京駅に向かい、東北新幹線「やまびこ号」に乗った。いつものようにサンダル履き、荷物はデイバックひとつ。中にはウォークマンや文庫本、簡単な着替えなどが入っている。この季節に北へ向かう人は少なく、車内は空いている。北上するにつれ、咲き残っている桜が目に入るが、もう一度春を味わう気分にはならない。オフをエンジョイする旅ではなかった。センチメンタル・ジャーニーというよりも、デスペレート・ジャーニー。心が壊れていた。