*REVIEW_Music 1

 

  モーツァルト:歌劇《魔笛》全曲 DVD 指揮:ジェイムズ・レヴァイン

  ☆☆☆

「楽しめます」

DVDでオペラを所蔵することで、まずリッチな気持ちになります。
J・レヴァインのモーツアルトは、
軽快で、さっそうと、走っていきます。響きもキレイです。
演奏に何の問題もありません。ただし序曲・間奏曲のシーンで、せっかくオーケストラが演奏しているのに、
カメラは指揮者ばかりを映します。レヴァイン氏、演奏はいいのですが、ビジュアル的にはちょっと・・・。

舞台ですが、D・ホックニーの美術が予想外にはまっています。大蛇の征伐、雲に乗る子供たち、
夜の女王の登場など。笑えるし、魔笛世界を満喫できます。
演出と衣装もいい感じです。

夜の女王のソプラノ最高音で転がっていくような聴かせ所は、
歌手のお腹が腹式呼吸で凸凹する。
鳥男パパゲーノはオペラ歌手が役をやっているのではなくて、
鳥男そのもの。

暗い舞台に合唱団が掲げる照明だけが浮かび上がるシーンの美しさと合唱の見事さ。
ソリストたちのアリアではないのに、会場から拍手が湧き上がります。

感動するのは、お腹を空かせたパパゲーノが、食事とワインをもらって、
空腹を満たした後、「僕がほしいのは何だろう?」と歌い出すアリア。

魔笛はモーツアルトの晩年に書かれた名作オペラ。
パパゲーノが欲望を満たした後、(自分が欲しいモノは何なのだろう?)と自問した後のアリアの旋律は、
モーツアルトが6歳の時に書いたピアノ曲(K3)のメロディーなのでした。

生涯の最後に、こういう設定で彼が思い出したのは、
自分が最初に曲を書いた頃の、純粋なメロディーだったのです。
これにはしびれます。

 

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  I MUCIC (Pina Carmirelli) アントニオ・ヴィヴァルディ「四季」

  ☆☆☆

「進化するイ・ムジチ」

1951年に結成され、翌52年のヴェネチア音楽祭でデビューしたイ・ムジチ(音学家たち、の意味)。
結成目的は、それまで主流となっていたバロック音楽演奏が過度に情緒的だったので、
彼らは自分たちが考える現代的なバロック演奏の形式、
つまり本来楽曲が持っている魅力をそのまま再現する演奏を確立するために仲間を集め、旗揚げした。
当時、メンバー12人の平均年齢は20歳。初代コンサートマスターを勤めたアーヨは弱冠18歳だった。

この盤のコンサートマスターは、4代目のPina Carmirelli。初の女性CMだ。
彼女が中心となった「四季」は、イ・ムジチ音楽の変化を感じさせる。
なにより全体の楽器の分離が鮮明で素晴らしい。
特にチェンバロと、通奏低音部。
アバド盤や、ホグウッド盤だと、チェンバロは彼方に引っ込んでしまい、
時折存在を感じさせる程度だが、
PINA盤では、しっかりと全体で存在感を示し、
低音部も、きっちり聴き取れる。

さらに楽器だけにマイクが向けられているのではなく、
演奏されている場の雰囲気が伝わってくるような
アンビエントな録音になっているので、
ヘッドホンなどで聴いていると、
まるで良質のホールの最前列にいるような気持ちになる。

通常のような、板のような薄いヴァイオリンの音ではなく、
木の胴の部分が共鳴していることが分ってくるような
厚みのある弦の音になっている。

演奏はどの楽章も素晴らしいが、「冬」の第一楽章を聴いた時に、驚いた。
ここは「冷たい雪の中で凍えて震える」と楽譜に情景が描き込まれているが、
PINAイ・ムジチは、空が陰り、暗く重い雲で埋めつくされ、小雨まじりの雪が降り出す様を、
冒頭部分でそのままに表現する。
徐々に近づく寒さと暗さに包まれる空。
微音で始まり、クレッシェンドしていく音楽。
雪のちらつく様はチェンバロで、
北風のヴァイオリン(左チャンネルのPINA)と、舞い散る雪(右チャンネルのチェンバロ)のかけあい。
最後はコートの襟を立てるしかない厳しい北風が吹きすさぶ。

2代目CMのミケルッチ盤は、全体の演奏の一体感と、
彼の音楽(ヴィヴァルディ)への思いが伝わってくるような感動の名盤だが、
その伝統を受け継ぎながら、PINA盤では、
彼女のソリストとしての力量を立たせた「四季」が楽しめる。


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 『フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!』 パコ・デ・ルシア/ アル・ディ・メオラ/ジョン・マクラフリン

  ☆☆☆

「サンフランシスコの金曜の夜は、熱かった」

このアルバムは、通常レコードと、レコードの重さがずっしりと重いオーディオマニア用の良質盤(そんなものがあったんです)と、通常CD、スーパーオーディオCDの4種類を持っています。マニアではないし、収集僻もないですが、その理由は、ひたすらこの1曲目に収録されている、パコ・デ・ルシアとアル・ディメオラの演奏が、圧倒的だから。一旦聴きはじめたら、金縛り状態。スピーカーの前でぴくりとも動けない。単に「上手い」とか「熱い」とかいった形容を超えて、聴いているこっちが音そのもの、演奏そのものになり、鳴ってしまっているような錯覚に陥る。唖然、陶酔、興奮、愉悦。パコ・デ・ルシアは左チャンネル。アル・ディメオラは右チャンネル。ステレオ前は(ヘッドホンだと頭の中は)、コンサートホールそのもの。録音もいいです。観客もいいです。2人に素早く反応して、絶妙なところで叫び声が入る。11分25秒の演奏が一瞬で駆け抜ける。「熱情」です。彼等のルーツのフラメンコとかジプシーの血が、人間業と思えない超絶技巧が、早弾きが、生ギターの音が、響きが、曲の魂の中で、燃え尽きてしまえ!とばかりに燃えさかっています。


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  The Beatles 「LOVE」

  ☆☆☆

「ビートルズ新時代の幕開け」

全体がひとつの流れで進んでいきますが、
試聴機で聴いた時は「Here comes the sun」が一番好きでした。
HMVに行ったら1250円で売っていたので、軽い気持ちで買いました。
聴いてみると、とてもいいです。最近何度も聴いてます。


冒頭は、アカペラの「ビコーズ」です。
「アビーロード」の「サンキング」の曲前に入っていた、
ポールが自宅で録った庭の音(鳥の声とか)が、曲が始まる前、間、後にずっと流れています。
その静寂を破るのが、「ア・ハードデイズ」冒頭のモジャーンモです、
そこに「アビーロード」(「ジ・エンド」)でリンゴが見せた唯一のドラムソロがかぶさり、
「ゲットバック」のエレキギターのリフにつながっていきます。


全体が、ビートルズへの共感と敬愛で貫かれています。その上に、よく考え抜かれています。
なおかつ現代的感性で選び抜いたビートルズ音楽のエッセンスが、
クリアーな音でタペストリーのように編み上げられています。
リミックスにあたって、ピッチを変えるなど、
原曲をいじることはいっさいしていません。


感心するのは、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴのいい部分の抜き出し方です。
この「LOVE」という楽曲全体が、ビートルズ音楽への批評になっています。
(もちろんそれ自体がすごく楽しく聴ける音楽作品になっていますけど)。
特にジョージのインド音楽に対する評価・センス・見識は素晴らしいです。
「サージェント」の頃のジョージのインド音楽への系統は、違和感しか感じなかったのですが、
こうやってサンプリングされてリミックスされると、
それがビートルズ音楽の重要で魅力的な一要素であったことに気づかされます。
21世紀に誕生した、新しい「不思議ワールドミュージック」として、
ビートルズ音楽を再体験することができるのです。
ある時は中世音楽のように聴こえ(時間の旅)、
ある時はイスラームな気配(空間の移動)を感じます。


ほぼまんま1曲入っているものもあります。
「A day in the life」も名曲の独立性を尊重して、最初から最後まで、
あまり加工されずに入ってます。
楽曲のラストは、オーケストラの全員同時合奏音「ダダーン」です。
残響音が消え果てるまで、40秒間以上続きます。
それが流れた後にも「LOVE」は続いていきます。
何が来ても、そこで一旦終わった感じは出てしまうでしょう。
あの楽曲のあの終わり方の後を、いったい何が引き継げるのでしょうか?
自分は思いつきませんでした。
答えは、「ヘイ・ジュード」のポールの声(ボーカル)でした。


こんな風に、聞き所は満載です。
なおかつビートルズの良質なベストアルバムとしても普通に聴ける。
選曲者は、もっとアイデアを持っていたはずなので、
第2弾も期待しています。

 

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